年収の壁 支援強化パッケージについて

人手不足への対応が急務となる中で、短時間労働者が「年収の壁」を意識せず働くことができる環境づくりを支援するため、政府より2つの施策(支援強化パッケージ)が発表され、お取引先様各社におかれましても、情報収集に奔走されていることと存じます。以下、弊所(2023年10月2日時点)の見解を記しますので、ご参考としていただければ幸いです。

特定適用事業所の会社
(被保険者数が101名以上で、既に短時間労働者が加入している規模の会社)
いわゆる「106万円の年収の壁(※)」を意識して、働き控えをするパートタイマー・シニア(以降「パートタイマー等」とします。)がいらっしゃるかと存じます。(※)年収106万円以上となることで健康保険・厚生年金に加入する壁

今回の政府支援強化パッケージでは、新たに年収106万円の壁を超え、社会保険の適用対象となる方を対象として「社会保険加入促進手当」等を支給することとした会社向けに、対象者一人当たり最大50万円の助成金を支給することとされました。この支援パッケージが大々的に広く国民にも広報されていることから、なかには「社会保険に加入することとなるのと引き換えに、自分が負担することとなる保険料分は会社が負担してくれることになる」とか「助成金の50万円はパートタイマーである自分自身に支給されるものである」などの誤解を生じることが想定されます。

本助成金は、従来から存在する「キャリアアップ助成金」に新たなコースを設けることにより実施するものであり、その要件として現段階で考えうる会社の施策は、次の3つとなります。
① 短時間勤務のパートタイマー等の所定労働時間を長くする取組みをすること
② 短時間勤務のパートタイマーの時給を引き上げる取組みをすること
③ 短時間勤務のパートタイマーに社会保険加入促進手当等の新たな手当を支給すること

【弊所見解】
上記の施策による助成金を受ける場合は、その方法(①~③)を選定し、実施することが求められます。③を選択した場合は、さらに当該手当は社会保険料の算定基礎から除外する取扱いとすることができますが、その対応事務の負担が増すことのほか、すでに適用対象となっているパートタイマーも包括して支給対象とするべきかどうかを決定するなどの大掛かりな検討が必要になります。この助成を受けるために社内施策を決定するという順番ではなく、先に会社の方針を定め、その上で必要であればパートタイマー等に①~③の施策を実施することを決定し、結果として助成対象となるならば、積極的に助成金を活用されることをお勧めします。令和7年度末まで対象になるようです。

【特定適用事業所以外の企業様】
(短時間労働者の社会保険適用がまだない会社)
年収130万円を超えるパートタイマー等について、事業主の証明を付すことで2年間、扶養の身分に留まることができるものです。

【弊所見解】
パートタイマー等が扶養の範囲を超えないようにシフト調整をする時期が到来しています。本施策を活用されたい会社は、パートタイマー等に、「当社は人手不足のため、みなさんの年収が130万円を超過した場合であっても、扶養から外れないようになります」と周知することで、安心して働いてもらえるでしょう。また、これにより年末の繁忙期を乗り越えることができます。

現時点では、厚生労働省からの情報は「年収の壁」への当面の対応策にとどまっており、今後具体的な情報が順次発表されることが予定されています。

詳しい情報がございましたら随時情報提供いたします。本件について具体的な対策にかかるご相談がございましたら、お気軽にご連絡ください。

※「被保険者」とは健康保険・厚生年金保険の被保険者を指します。
※「扶養」とは、健康保険・厚生年金保険の被扶養者を指します。